2006年 09月 30日
さて、今回は、先日行われた「東京最前線」というイベントについて少し。このイベントは、大分在住のサックス奏者、山内桂さんの呼びかけで、東京の文字通り「最前線」の先鋭的音楽を九州に紹介しようという企画とのことです。出演者は、一般的には全く無名だけども、各々が様々な形態のイベントを企画し、正に音楽的な最前線を切り拓き続けている方々。って、ちょっと堅い書き出しですね。軽くいきましょう。 まぁ、この種の音楽、或いは表現手法にはどうしてもある種の誤解、或いは敷居の高さを感じさせるものがあるのですが、それはもう致し方ないことですね。元々の表現の出所というのが、本来の語義である大衆音楽という意味においてのポップ・ミュージックというものとは、全くかけ離れたところにあるのですから。 例えば、僕なんかを含め、所謂ポップ・ミュージック側からアヴァンギャルド・ミュージックへと接近を図るということは、結果的に音楽的表現と非音楽的表現との軋轢を如何に現出させるかというところに、アヴァンギャルドであろうとすることの必然性を求めるところがあるのですが、この「東京最前線」の方々は、そうではなくて、音を出し始める最初のところからアヴァンギャルドである必然性を持っている、とでも言うか。音そのものへの偏執的なこだわりと表現手法そのものへの徹底的な探求。「大衆」という概念は最初から存在せず、しかし、その表現の質の高さ、或いは表現手法の独自性の高さにより、触れた人たちを魅了し、結果的にある種の「大衆」が生まれるということ。この「大衆」は、一般的「大衆」よりも、当然より批評的立場に立ち易く、これが独特の敷居の高さを作り出しているのではないのかなと。前衛的或いは実験的音楽にはそのような批評性が幸か不幸か最初から内包されているのでしょう。または、その批評性そのものが前衛への入り口になっているのではないかとも思えます。 とりとめの無い「アヴァンギャルド考」になってしまいました、、。要は、そんなものは関係ないではないか、ということ。アヴァンかどうかを考えることが既にアヴァンじゃないぜ!みたいな(笑)。 結局、僕が、この種の音楽に求めるのは、それがどれほど刺激的なものなのかというその一点。怒りだったり安らぎだったり興奮だったりというものは、「ポップ・ミュージック」で賄っておけばいい。それを大衆に落とし込むのが「ポップ・ミュージック」の役割ではないでしょうか。そういう情緒を全く意図しない純粋な刺激。これは、ちょっと堪らないじゃないですか? その刺激性を情緒へと如何に落とし込むか、それが僕らの役割なのかな、とも思います。(例えば、ovalを初めて聴いた時は、そういう意味でも非常に衝撃を受けました。) では、前書きはこのくらいにして、、。 今回の「東京最前線」は、ショウケース的意味合いが強いものだったのですが、だからこそ出来るだけ多くの人に見て欲しかったのです。でも、やはり集客はどうも奮わず、、。まぁ、しょうがないかな、とも思うのですが、ホント勿体無いなぁと。 そんな雰囲気の中、「東京最前線」の企画者である山内さんが演奏を始める。ソプラノ・サックスを構え、少し腰を落としゆっくりと空気を確かめるように音を出し始める山内さん。気音を使った即興の曲を含め、あっという間の3曲。これが、本当に素晴らしかった! 個人的には、今まで見た山内さんの演奏の中ではベストかなと。 なんというか鮮烈で清廉なサックスの響き。まるで、まだ幾分の冷たさの残る初春の風のように、空気が軽快に爽やかに管を吹き抜ける! そんなイメージがありありと浮かびました。何度も観ているはずの、代表曲"salmo"もメチャメチャ良かった。もっと長い間、その音が吹きぬけ、勢いよく跳ね上がる様を眺めていたい、そんな感じがしました。写真で、その雰囲気だけでも伝わると良いのですが、、。 山内さんの見事なイントロダクションに続いて、まずは高橋琢哉氏。フライヤーの紹介文では、様々なものを使っての即興演奏を中心に活動されているとのことですが、この日は、ギターのみでのパフォーマンス。おそらく完全に即興なのでしょう、不規則に鳴らされるハーモニクス音と不意に訪れる「正しい」和音。その流れから、彼は突然唄いだしたのです。いや、これはビックリしました(笑)。全く想定外なエモな佇まい!? これも、思わず(?)即興でやってしまったのでしょう。またその流れから、今度はインプロの定型を示すような速いパッセージの折り返しを経て終演へ。 突然の唄に驚かせられたパフォーマンスだったのですが、彼は舞踏家とのコラボレーションを多数やっておられるとのこと。舞踏の現場で瞬間瞬間に創られる演奏というのは、おそらくかなり多様なものでしょう。今回の演奏は、高橋さんのほんの一部を垣間見ただけなのかなと思いました。 やっと会場のプライヴェート・ロッヂの雰囲気がこなれて来たかな、というところで、吉村光弘氏の登場。個人的には、今回の「東京最前線」で一番気になっていた人。まぁ、それは単純に彼の演奏手段であるマイクロフォン・フィードバックとは?という興味からなのですが。高く立てられたコンデンサ・マイクと、それに繋がれているであろうヘッドフォン。それが干渉しあってフィードバック音が出るのですが、かなりヤバイ音でしたね。 僕も以前、アンプに直接マイクを繋いで、マイクをアンプに向けると発生するフィードバックで演奏(?)をしようとしたことがあるのですが、いや全く持ってダメでしたね、、。演奏どころか、もうどうしようも無かった(笑)。 しかし、この吉村さんの演奏は、非常に洗練されていました。頭の中を削るような高周波な微音。それが、どういうことだか空間をうねる。もう目で見えそうなくらいのはっきりとした体裁をとったピリピリとした音波(そう、正に音波だ!)が、現れるのです。その動きは、余りにも目前で、或いは頭の中で起こるため、いつの間にか方向感覚のようなものが失われてしまいそうでした。割りに短めの時間で終わったのですが、これがもうちょっと長い時間続くと、ホントにヤバイ気がしました。いや、スゲーなと。 そいういえば、結構前に一楽さんのシンバルのみのパフォーマンスを観たことがあるのですが、それと近いものがありました。頭の中に直接入り込んでくる音。 そして、tamaruさん。今回のキャストでは一番メジャー(?)でしょうか。ベースの即興演奏を中心に、各方面で多岐に活動されている方です。 ベースにコーラスと複数のディレイをかけて生み出される重厚で穏やかなドローン。今回の「東京最前線」の中では、最も「音楽的」と言っていいでしょうか。和音があり、ハーモニーがあり、微かながらも展開もあるように僕には思えました。しかし、このドローン音の粒子の滑らかさは何なんでしょう。もっと音響の良いところで聴けたら、と思わざるを得ませんでした。 ちなみに、tamaruさんは、新しい音源を会場で無料で配っていた(!)のですが、その内容は、この日のライヴとは全く別物でした。非常にきっぱりとした電子音響作品といった風情。跳ね回るたびに微妙に表情を変える音の粒を追っていると、何故か凄くリラックスして来ます。実は、これを書いている間何度もリピートしていたりして。 tamaruさん、様々な引き出しをお持ちの方のようです。他の形態でのパフォーマンスも是非見てみたいなと。 tamaruさんが終わり、最後に4人でセッションとなりました。ちょっと時間が短かったので、特にこれといった感想を持つことは出来なかったのですが、あらためて、4人が4人とも独自の方法なのだなぁ、とか思いました。これにて、熊本での「東京最前線」は終わり。 個人的には、やはり人が少なかったのが残念ですが、内容は刺激的で非常に濃いものでした。プライヴェート・ロッヂもいい感じで、タコライスはおいしかったし。しかし、冷蔵庫のモーター音が気になるイベントというのもお店としては、やりにくいだろうな(笑)。
by marr_k
| 2006-09-30 02:21
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